追悼:ベトナム国際政治学者 中野亜里さんを悼む
追悼:ベトナム国際政治学者 中野亜里さんを悼む
猪野修治(「10・8山﨑博昭プロジェクト」賛同人、湘南科学史懇話会・代表)
▲講演する中野亜里さん(2019年11月16日)
ベトナム国際政治学者の中野亜里さん(大東文化大学国際関係学部教授)が本年、1月9日逝去されました。享年60歳。衷心よりご冥福をお祈りします。
「10・8山﨑博昭プロジェクト」2019年秋の東京集会(全水道会館、11月16日)に中野さんを講師にお招きし、特別講演「べトナムをどう見るか―歴史認識と現実」を行いました。当初は10月12日に実施する予定でしたが、当日がたまたま、大型大風の襲来で交通機関が大混乱し、結局は中止することになりました。この間、たびたびのメールの交換をおこなうはめになり、ご多忙な日々を送られていた中野さんは、大変なことだったと思います。
中野さんはつねづね、べトナム反戦運動世代は、べトナム戦争が終結した1975年4月30日以降、ベトナム問題をすべて忘却し、革命後のベトナム国内で起る負の諸問題に、まったく無知である、とたびたび語り嘆いておられました。それの中味は、著書『現代ベトナムの政治と外交』(暁印書館)、『ベトナムの人権 多元的民主化の可能性』(福村出版)、そして編著『べトナム戦争後の「戦後」』(めこん)などに、具体的に記述されております。なお、個人的な話を許していただければ、最近、大部な翻訳書が印刷にまわったとお聞きし、その書物がいつ送られてくるか、と心まちにしていたやさきでした。
中野さんは講演の中でも、戦後のベトナム国内における「人権問題と民主制度」に焦点をあてられ、それらの現実がどのようなものであるかを具体的に紹介され、共産党一党独裁下のベトナム国家に、人権と民主を確立することが、いかに困難なことであるかを述べられました。そこには複雑な権力構造と国際関係が影響しているとのことでした。
勤務する大学では、ベトナムはじめ東南アジア諸国からの留学生を受け入れ、ベトナムにも日本人の留学生を送るなど、ベトナムと東南アジア諸国の人々と草の根の交流をされているとお聞きしておりました。ベトナム国際政治学者として、ますますのご活躍が期待されているさなかでの訃報は、無念の極みであります。中野さん、ほんとうに、ありがとうございました。合掌。
2021年1月11日
(いの・しゅうじ)