今野和代氏が映画評、東えりか氏が書評―代島治彦監督『きみが死んだあとで』

「…まじめに働く人間がまじめに報われるような世の中にしたいなあ……」

――長編ドキュメンタリー映画『きみが死んだあとで』(2021年日本 監督 代島治彦)

今野和代

 一九六七年十月八日。十八歳。弁天橋で亡くなった山崎博昭の死を巡り十四名が語るドキュメント映画をみた。この作品の突出点を七つあげたい。
冒頭と最後。雨の日。自身のモノローグを字幕に流し、学生服を着た代島監督が山崎の遺影を大きく掲げて弁天橋に立っている。写真がアップになり私たちを見る。監督が山崎の死を自身の内側から捉え、同時に観客にも問うという構造を持っている点が一つ。
山崎の兄建夫の証言や保管されていた写真、日記や書籍、母の家計簿のメモ等から、十八歳の死に至るまでの山崎博昭という存在そのものの、かけがえのない生涯を浮かびあがらせた点が二つ。
六七年第一次羽田闘争時の夥しい写真や大学新聞を含む当時のメディアの報道、その後の学生運動とりわけあの東大闘争の写真やフイルムが次々挿入され、あの時代の息遣いと臨場感を二〇二一年の今、浮かび上がらせた点が三つ。
語る人物たちの瑞々しい十代の頃の写真と現在の暮らしを彷彿させるインタビューの対比を際立たせ、六七年の山崎の死から今に至るそれぞれの物語が内包された作品でもあるということに胸を打たれる。発言する十四人、どの一人を取っても一本の映画が十四本作れるほどチャーミングで興味深い。その後の半世紀に及ぶ各自の歩みさえも彷彿とさせた重層的骨格を持つ映画として誕生させたことが四つめ。
五つめは思想を問う作品としても提示されたところだ。救援会の重要さ、第一次羽田闘争と三派全学連、その後に続く運動との位置づけ等を語る山本義隆の発言。当時中核派リーダーであった赤松英一が内ゲバを巡っての問題を今の肉声で、切れ切れに重く語るシーンを引き出したこと。谷川雁の言葉を引き「…この無駄さの価値を組織論に生かしている組織なんてひとつもない…でも庶民は全部知っている…なにかをやり続けるときに何がいちばん大事なのかと…」と話す佐々木幹郎の発言等。キャメラが捉えた。
六点目は音楽。素晴らしく尖がっている。即興演奏に立ちあうような斬新な旋律。今を破壊する荒ぶる呼吸。どんな時代においても、清新なはにかみのように生まれ続けていた熱や歌。けもののような荒削りの暴。悲鳴や深く乾いた悲しみ。この映画にそれを確かに音楽で大友良英は滲ませた。
ひとりぼっちの山崎の死が今イキテイル私を訪れ続ける映画であることが七つめ。

 「何であんなに力なかったんかなあ…」山本義隆の声はそのまま私のなかで揺れる。
 私のほんの少し前の時代を走り抜けていった兄や姉たち。痛みにやさしく傾く柔らかな胸。海綿のように知を我が脳髄に引き入れていくカシコイ触手。既成の押し付けをたちどころに見抜き、実験やハプニングや、やみくもさから生まれる輝きや失敗やキッチュなあがきを何よりも愛した感受のレーダー。「連帯」や「孤立」という観念用語をそっくりそのまま自身に引き受け、ナマミの身体のバネにして今を突破しようとした。そんな状況の場で果てた、今なお引き返しようもない空白を浮遊し続けている魂たち。一粒ひとつぶ、雨粒になって私に滴りおちて今なお止まない。
 宙刷りを耐え続ける衝撃の映画だ。

(こんの かずよ・詩人、『イリブス』同人)

『ACT』(仙台演劇研究会通信)Vol.428、2021年7月号《ビデオギャラリー》から転載

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羽田闘争で亡くなった京大生を悼む14人へのインタビュー

――代島治彦著『きみが死んだあとで』(2021年6月刊、晶文社)

東えりか

週刊新潮(2021年8月5日号)の書評欄に掲載された書評です。

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映画『きみが死んだあとで』の今後の上映スケジュール

【深谷シネマ】
8/1(日)〜8/7(土)
11:40から上映(途中休憩あり)
★8/1(日)上映後、代島治彦監督の舞台挨拶あり

深谷シネマ公式HP:http://fukayacinema.jp/?eid=2

【長野相生座ロキシー】
9/24(金)〜30(木)
上映時間未定

長野相生座ロキシー公式HP:http://www.naganoaioiza.com/category/1231977.html

【福岡・自主上映会】
映画『きみが死んだあとで』福岡上映会
日時:2021年9月11日(土)12:00開始(上映時間200分)
上映終了後にトークシンポ(17時30分終了予定)
会場:西南学院大学コミュニティセンターホール
一般 2500円/学生・シニア・障がい者割引 1900円
主催:西南学院大学「ことばの力養成講座」(責任者:法学部田村元彦)

ゲストとして代島治彦監督、詩人の佐々木幹郎さん、哲学者の森元斎さんなどを予定しています。
 佐々木幹郎さんは1967年大手前高校卒業。羽田闘争で死亡した山崎博昭とは同期である。1970年、その死を追悼した第一詩集『死者の鞭』で詩壇デビュー。

【予約受付】(先着順、90名限定)
参加希望の方は、氏名とご所属を明記の上、
下記ホームページの申し込み先メールアドレスから事前予約申込をお願いします:
https://www.seinan-gu.ac.jp/news/2021/12223.html

 当日は入場人数を会場の定員の半数以下の90名に制限して実施します。 ワクチン2回接種済が望ましいですが、強制はいたしません。ただし、鑑賞の際にはマスクを着用し、入口で手指消毒を行ってください。新型コロナウィルス感染拡大防止に伴う実施の有無は、市内映画館の上映状況を基準とします。万が一実施中止とする場合はホームページ上でお知らせいたします。

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